巫術師の悪計わるだくみ


 「さあ、さあ、みなさん、よく御覧じろ。
 これなる豆男が、私の口笛につれて、面白い踊りを踊り始めまする」
そして小人の踊りを一目見ようと詰め掛けたトゥーラの町の人々は、押し合い圧し合いしているうちに圧死してしまう……『世界神話伝説大系16 メキシコの神話伝説』(松村武雄編/名著普及会/1928年初版・1980年改訂)収録の「巫術師の悪計」より。本当はテスカトリポカもウィツィロポチトリも変身しているから、こんな正体丸出しな姿はしていなかったと思いますが……。
ケツァルコアトルを陥れ、トゥーラの民を苦しめる3人組の巫術師(テスカトリポカ・ウィツィロポチトリ・トラカウェパン)、せっかくだから全員描きたかったんですが、トラカウェパンのビジュアル資料がなかったので断念しました。っていうか、何者なんですかトラカウェパン。ウィツィロポチトリの別名だとか兄弟だとか分身だとかいろいろ言われているけれど、いかんせん資料がなさ過ぎです。とりあえず、ウィツィロポチトリ関係者なのは確かなようですが。
史実のトゥーラ崩壊にはメシーカ人(アステカ王国を立てた人々)は直接関わってはいないようなので、伝承においてメシーカ人独自の神であるウィツィロポチトリ&トラカウェパンが関わってくるのは何故でしょう? 別バージョンの話では、3人の巫術師はテスカトリポカ・イウィメカトル・トルテカトルになっていたりもするし。とりあえずテスカトリポカは固定ですが、そういえば何故ケツァルコアトルのライバルといえばテスカトリポカということになったんでしょう? まぁトゥーラにおいて何か対立するようなことがあったからなんでしょうが、それが具体的に何だったのか、とか。生贄の是非をめぐってというのが有名ですが、それを理由としていない史料も結構あるっていうかむしろそっちの方が多いらしいのがなんとも謎。そもそも、テスカトリポカの出自ってよく解りません。どこから来たのかテスカトリポカ……? そういえば、テオティワカン時代にはケツァルコアトルと争っていたのは雨の神トラロックらしいなんて説もありますね。『第5の太陽の創造』なんかをよく読むと確かにそんな感じもしますが、さて?
絵の技法的なことについて言えば、今回はまた今までとは違う塗り方を試してみました。なんかこう、邪術的な何かを表現したかったんですが……。
それにしても、テスカトリポカの唇のラインにはてこずりました。

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