切り裂きジャック

 切り裂きジャックに関しては昔から興味はあったんですが、質量ともに充実したサイトがすでに沢山あるので、私ごときが今更何かできるだろうか……と思っていました。ですが、「しょうもないこと」ならできるなと気付いたので、そういうコンセプトで。


 1888年のロンドン首都県成立を記念した絵『New London』を見て、「ああ今の私はこんなに明るい未来を素直に想像できない」と20世紀末の私は悲しんだものでした。
 その絵は、画面右手の「光」「慈善」「オゾン」などの善きものが「長時間低賃金労働」「テムズ川の水質汚染」「スラム」などの社会的害悪を画面左手に追いやっているという構図でしたが、よく見ると左端ギリギリのところにナイフを握り締めた男がひそかに描かれています。これはひょっとして切り裂きジャック――この年に現れ問題となった殺人者――ではないでしょうか?
 当時の人々は、切り裂きジャックも文明の進歩によって追い払われるべきだと思っていたのでしょう。そしてそれは可能なこととも思われていたかもしれません。しかし、むしろ彼こそがある意味では新しい時代を切り開いた人物ではなかったか、そう20世紀末〜21世紀初頭を現代として生きる私は思うのです。

 『ロンドンの恐怖』(仁賀克雄著/早川書房/1988)の「あとがき」に「ホームズやドラキュラにくらべ、ジャックは名のみ高い割には、事件の実像や当時の社会状況、現場の背景が日本にはあまり知られていない。もう50年以上昔に牧逸馬が書いた犯罪実話でのジャック像が、いまだに日本人の脳裏を占めている」と書かれてましたが、……こんなに知っている人もほとんどおらんだろう、というのが牧逸馬の件の文章を後に読んだ際の感想です。興味をそそられる語り口で、これで「切り裂きジャック」が日本でも知られるようになったのもむべなるかなとも思いましたが。
 私が切り裂きジャックという名前を初めて知ったのは、たぶん幼稚園児の頃に通っていたピアノ教室に置いてあったマンガ『1、2のアッホ!!』3巻(コンタロウ著/集英社/1977)の「さらば波目! の巻」という話でだったと思います。そのとき得た知識は、「切り裂きジャックという、人間を切り刻む怪人物がいる」といったものでしたが(余談ですが、そのエピソードは手塚治虫の『ブラックジャック』のパロディでもあったんですね。この文章を書くために久し振りに読み返して気付きました……ピアノ教室の同じ本棚にどちらもあってどちらも読んでたのに、私の鈍かったこと)。
 その後も漫画等で時々見かけたりはしていたんですが、興味を持つに至った決定打は、高校2年の夏に進路校外研修の自由時間で訪れた東京駅八重洲地下街の書店に積まれていた本でした。ふと目に留まったその本、『恐怖の都・ロンドン』(スティーブ・ジョーンズ著、友成純一訳/筑摩書房/1994)に載っていたジャックの事件はとても意外で刺激的で、立ち読みじゃ足りないぜひ購入して……と財布を出そうとして、研修最終日で小遣いの持ち合わせがないことを思い出し、ひとまずその場での入手は諦めました。
 その後、問題の本は地元に帰ってから無事入手できました。切り裂きジャック以外の話も面白かったけれど、ジャックのページは手垢で変色してしまうほど読みまくっていましたね。
 また、切り裂きジャックは当時ハマっていた格闘ゲーム『ワールドヒーローズ2JET』(ADK開発、SNK発売/1994)の登場キャラ「ジャック」のモチーフだったこともあり、史実の探究や自分なりの解釈などに凄い勢いでのめりこんでいったのでした。他の本も読んだり自分なりに小説化してみたり。
 私は気が多いので1つのものばかり追ってはいないけれど、飽きて捨てるということもあまりしない性質なので、その後もゆるゆると、時には熱く、興味を持ち続けて今に至ります。



基礎知識的なこと(他所を当たっ た方がマシっぽい)

 犠牲者

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